「エラー防止に関する協議会ワークショップ」の感想
(主催:医療のTQM協議会、協力:厚生科学研究「病院医療の質保証システムに関する研究」班)

                        武蔵野赤十字病院 副院長 三宅祥三
 
 7月22日、23日の両日、川崎市のNEC研修所で上記ワークショップが24施設48名の参加のもとで行われた。4つの講義、病院報告4題、10題の事例分析と3つの課題についてグループワークがおこなわれた。
 3つの講義はいずれも大変刺激的で示唆に富んだものであった。
 講義1:「ヒューマンファクター工学から見たエラー防止メカニズム」東京電力株式会社原子力研究所ヒュウーマンファクターグループ 河野龍太郎氏の講義では航空業界や産業界が今最も注目しているヒューマンファクターについて大変解り易く解説して下さった。ヒューマンファクターはなかなか理解しにくい所があるのだが、基本はSHELモデルでシステムを考えて、様々な人間の特性を十分理解して人間にやさしい、人間が働きやすいシステムを作って事故を起こりにくくすることであるとのお話であった。
 講義3:「注射エラーの発生要因についてー看護の注射に関するヒヤリハット事例3000例から」杏林大学保健学部保健学科教授 川村治子氏の講義は11000例の看護事例報告の中から、3000例の注射事例を6つの対象項目についてそれぞれ6つのプロセスに分けて分類して、そのプロセスの分析の中から頻度の高い行為はどのようなものが多いのかを明らかにして、どこに焦点を当てて注意をすれば良いのかを明示して頂き、大変説得性があり、刺激的で示唆に富んだお話であり、参加者一同感動した内容であった
講義2:「エラー事例分析の方法論について」早稲田大学理工学部システム工学部教授
棟近雅彦氏は、ある病院の投薬事故事例の分析から今後の事故予防に活かせるインシデントレポートにはどのような情報が必要であり、そこからどのように分析していくのかという方法論の提示がなされた。
講義4:「組織的改善活動への展開と質保証システムの確立」東京大学大学院工学系研究科教授 飯塚悦功氏は日本の産業界が築いてきた品質保証のシステムは、失敗から学び改善するという常なるプロセスの改善の積み重ねであり、それが組織の限りない成長をもたらすのである。品質は工程の中にあるとのことで、この考え方が医療界にも求められていることを話された。
 病院からの事例分析やクループワークはクロースドな会ならではの活発な意見交換がなされて、実りの多い検討会であり各病院の明日からの取り組みに有意義な議論であったと思われた。この2日間のワークショップに参加した各病院の人達はおそらく参加費用の10倍程の収穫を得て帰ることが出来たのではないかと思うほど密度の高い内容であったというのが私の印象である。このワークショップは日本の医療界での品質保証の取り組みが具体的にスタートした2日でもあったと思われる。この波動が全国に広がることを願いつつ、これを企画された協議会の皆様に心から感謝したいと思っています。


エラー防止に関する協議会ワークショップに参加して》
武蔵野赤十字病院 看護部 看護副部長 田浦和歌子

事故を防止する「打ち出の小槌」を見つけたい切なる思いでワークショップに参加した。結果は「小槌」まで及ばないが、収穫があり早速現場で活用していこうと計画をたてている。
当院でも他施設と同様に看護婦が起こす医療事故の45〜50%は注射事故である。その対策は小手先であり、どうしたらよいか悩んでいる。苦慮の割りに成果は上がっていない。この状態の時、棟近講師の講義を受けて、新たな挑戦をしてみる気持ちになった。

@注射事故の分析を棟近講師の方法で実施してみる。分析方法は棟近講師の指摘とおり“誤りの現象の把握”“文脈の意味”“業務の流れのどこでエラーが起きたのか”“要因”等を明確にする。そして、それらを誰でも間違いなく記入できる事故報告書をつくる。フォーマットは棟近講師のアクシデントレポートを参考にしたい。又、事故報告書に書き込む“業務の流れ”は「資料」のように区分けすれば、エラーの発生する箇所が明確になる。棟近講師のアクシデントレポート、及び“業務の流れ”は看護関係の文献にない発想で、新鮮であり、感銘を受けた。

ASHELL分析を早稲田大学の浅見、棟近講師らの「医療事故防止に関する研究」の論文にそって実施してみる。当院看護部は看護協会の医療事故ガイドラインにそって事故事例をSHELL分析で行ってみた。S、H、E、の項目に何を、どの様に区分けしたらよいか悩んだ。論文では医療に関するわかりやすい言葉で区分けしてある。何故このようになったのか記録されてないが、私共が悩み、解決できなかったことを事もなげに提供してくれた。この区分方法を丸ごともらって利用していきたい。
看護部の注射事故は対策を見つけられないまま右往左往していたが上記を実施することで何かを掴めるのではないか期待している。



「エラー防止に関する協議会ワークショップに参加して」
長崎労災病院 看護部 婦長 今里むつ子

私達は、毎日の業務を行う中で、事故防止に細心の注意を払つているが、それでもヒヤリ、ハットする事例は繰り返されている現状である。今回、私は「エラ一防止に関する協議会ワークショップ」に参加する機会を得、多くの学びができた。
今回の講師の方々が共通して言われた事はエラーやヒヤリ、ハットは偶然ではなく何か因子があり、その背景、要因を十分把握し、原因を除去しなければまた起きる。「気を付けろ」対策は限界があり、効果は薄いということである。又、現場をいかに知つているかが重要な事であり、未然に防げたから、何事も起こらなかったからとナアナアにしていたらまた起こるということを 日常の現場で痛切に感じている。起きるかもしれない、起きつつある、起きているという感受性を鋭<もたなければ正しく解決できない。管理者としてやれること、又、やらなければならないことをきちんと行っているかという振り返りになった。問題を問題として受け止めていない人に対してどうするか、どこに問題がぁるのか教育に関わってくると思われるが、個人対策にとどまるのではなく、出来るだけ組織、システムの問題としてとらえる必要性を再認識した。又、エラーが起こる事も想定しての被害軽減対策や、こうすれば安全、確実だという最低限のルールをつ<ることも重要であるという事に対し、共感した。     .
どこの病院でも、注射、内服薬に関するもの、転倒、転落事故、又、チューブやラインの自己抜去等がエラーの多くを占めていたが、川村治子氏(杏林大学教授)の講義にもあったように、注射、内服に関するものに早急に取り組めば、かなりのエラー件数は減少するものと考え、参考にしていきたい。例えば、3度の注射確認と言うことは、皆、知っていても実際にはその確認を怠り、エラーにつながっている例が多い。「忙しかったから」「気が焦ったから」「見たつもり」と言う人に対し、どの様に具体的に改善したら確実に3度見るようになるか大きな課題でもある。「3回確認しなさい」だけでは効果は期待出来ない。またしばらくすると繰り返す。この件1つにしてみても今回の講義を活用して深く検討しなければならないと考える。                      
講義の後の各病院からの事例検討やグループワークでの情報や意見交換は非常に活気があり意義があったと思わ
れる。似たような問題を抱え、生の情報が自分達の行動の振り返りに結び付いた。講師の方々の鋭い質問を聞い
て、いかに私共が分析が甘<、原因の背景となるものまでつかめていなかったがわかり、個人のエラーではなく
リスクマネージメントの問題である事を痛感した2日間であった。
今後もこの様な交流の場がある企画をお願いしたい。現場においては、エラー防止に対し組織全体で取り組ん
で医療の質を上げ、患者様の信頼と満足が得られる様、努力しなければならないと考える。