TQMによる事故防止への取り組み
前田建設工業 総合企画部 村川 賢司
プロローグ;ここからTQMが始まった
TQMの導入は,事故防止への大きな危機感からでした。
1979年3月20日,当時世界最長の北陸新幹線大清水トンネルが貫通し,掘削機を解体している作業中に火災が発生,社員と作業員の計16名という尊い命を失ってしまいました。その前年には,山形県最上川のトンネル作業所で,低気圧の通過によりトンネル内の気圧が下がりメタンガスがしみ出して爆発し,9名の方々が亡くなっていました。「人柱の上に経営は成り立たぬ」として,整理整頓を始め現場の安全活動を強化していた矢先の事故に,企業の存在価値をも揺るがす致命的な事柄でした。さらに,事業の拡大に伴い品質問題が再発し,仕組みによらない経営ではもはや顧客の要請に応えられず,加えてオイルショック後の不況による業績低迷が追い打ちをかけました。
当社が全社的な体質改善の運動としてTQMを導入した一番の理由は,遭遇した経営危機を克服するために組織全体のベクトルを合わせ,トップから第一線までが各々の課題に取り組む体質改善,いわゆる組織構成員全員の意識改革と仕組みの改善を,品質を中核にして進める,当時唯一無二の体系的活動であったことでした。
1980年に導入準備,1983年に正式に導入し,爾来20年,地味ながら不断にTQMに取り組み,TQMをも自己変革させつつ現在に至っています。
前田という会社
創業は1919年,設立は1946年であり,約80年にわたり建設事業に携わってきました。 ダム建設を発祥とし,青函トンネル,瀬戸大橋,東京湾横断道路などの国家的プロジェクトに参画し"土木の前田"として発展してきました。近年は超高層ビル,原子力発電所,ドーム建設などを手がけ,あらゆる分野の建設事業をとおし,生活と産業基盤づくりを使命としています。資本金は約235億円,従業員は約3,900名,売上高は約4,000億円,経常利益は約120億円弱です。国内事業を主体とした総合建設業として,国内15支店,約800作業所が稼働し,土木と建築の比率は約45:55となっています。
業態の特徴は,企画・調査・計画・設計・施工・維持管理・廃棄に至る建設事業のすべてのプロセスにおいて様々な形態のプロジェクトが存在し,@個別生産・受注一品生産,A製造場所が全国に点在している,B生産設備や施工チームが移動して完成後に生産設備とチームが解散する,C労働集約型の屋外産業で気象などの環境条件の影響を強く受ける,D設計と施工が分離していることが多い,E技術指向が強いなどであり,これらは総合建設業に共通しています。
この様な業態の中でTQM活動が進められました。
TQMの推進;監理から管理への意識改革
TQMの推進は,一朝一夕ではありませんでした。TQMを導入し,"仕組みで仕事をする"ことの啓発普及に努めたものの,全国に点在するプロジェクトは一つずつ異なり,所長の経験により何十年にわたり…棟梁時代から数えれば何百年にわたり…仕事が進められてきたのですから,仕組みで仕事をして,仕組みを改善しようとしても馴染まず,ぴんときませんでした。
当然,安全活動のやり方も現場ごとに違っており,仕組みという概念が希薄でした。さらには"管理とは統制か?"との誤解もありました。
そこで,管理とは,"同じ過ちを繰り返さない"ように"経験を事実・データで次の仕事に活かす"(いわゆるPDCAサイクル)こととし,仕組みで仕事をする重要性を浸透するための様々な啓発普及の教育を繰り返し行いました。
従来,現場での安全活動は,法規の遵守を第一義と考え,監理という視点から監査,指摘,是正という活動が主体で,法令違反がないことに力点が置かれていました。TQM活動の進展に伴い,監理から管理という考え方が徐々に浸透し始め,安全活動に共通の仕組み作りへの試行が行われるようになってきました。
安全の仕組み構築は,最初は先進企業から仕組み図を借りてきて,使ってみたものの当社の風土にあいませんでした。そこで,自社の安全活動の実際をあるがままフロー図に著しました。そして,現実に