発生した問題点に対する改善結果を活かし,現行の仕組み図に朱を入れ,標準類の制改廃を作業手順書に至るまできめ細かく行うという,息の永い活動を継続していくことにより,安全管理の生きた仕組みである"前田流の安全管理体系図"が自然とできあがってきました。
この過程で,協力会社としっかり意思疎通し,活動に参画してもらわなければ,
事故防止の本質的な実効を高められないことも学びました。目で見る・わかりや
すい作業標準により知識を伝承していく活動を,協力会社が主体的に展開し,写
真で見る整理整頓,絵で見る危険予知活動,危険予知マップ,ヒヤリハット再発
防止シート,職長安全カード,等々,数え切れないほどの安全の仕組みを工夫し,
改善しました。
改善の進め方は,図-1のように非常にシンプルな原則に基づいています。それ
は,標準に着目し,問題が発生したら,標準に立ち返って考えることでした。す
なわち,標準が"あったのか,なかったのか"。標準があった場合は,"守ったの
か,守らなかったのか"。標準を守って問題が発生したならば,改善活動で標準
を直していく。守らなかったのならば,例えば再教育を行う。標準がなくて問題
が発生したのならば,改善活動を行い標準を制定する。この成果例として,"火
災防止規則"や"メタンガス・酸欠等災害防止規則"などの標準が生まれました。
問題解決を効率的に進められるように,品質管理教育を粘り強く行い,改善活動
を自ら実践できる問題解決能力の高い人々を育てています。
改善活動は,ヒヤリハットも対象にしました。ヒヤリハット活動とは,現場で事故にはならなかったものの,"ひやっとしたこと"や"はっとしたこと"に気付き,共有化し,事故を未然に防ごうという活動です。1件の死亡事故の陰に,29件のケガが発生し,その陰に300件のヒヤリハットがあると言われています。この300件に着目し,ヒヤリハットを予知し,防止していく活動を進めました。
安全施工サイクルの日々の実践に,様々な活動成果が活かされた結果,安全成績が際だった進展を見せ始めました。
事故を防ぐ工夫を重ねて…
ちょっとした不注意,思いがけない用途により,事故は発生してしまいます。安全の仕組みを常によいものに直していく不断の活動と共に,人間味溢れるきめ細かい創意工夫の重要性もTQM推進の過程で学びました。
例えば,安全施工サイクルの一環として作業現場で毎朝行われる安全朝礼。早く仕事したいという気持ちの中で,同じ職場で働く人々が,"みんないるか,顔色はいいか,体調はどうか"などをお互いに気付きあい,フェイス・ツー・フェイスでお互いを認めあって,気持ちを同じくする貴重な時間を設けています。
安全朝礼のあと,作業を一緒にするグループごとに危険予知活動が行われます。危険予知活動の目的は,"危険に対する一人ひとりの感受性を高め鋭くする""作業に潜む危険性について一人ひとりが共通の認識を持つようにする""自分たちの安全は自分たちで守ろうとするチームワークを高める""みんなで参加・みんなで発言・みんなで合意・決めたことを自主的に守るようにする"というものです。そして,ワンポイント指差呼称とタッチ・アンド・コールをして作業を開始します。指差呼称を行うと,誤りの発生率が何もしないときに比べて1/3になると言われいます。
現行の標準だけでは押さえきれないポカミスに近い事故を防止するために,現場に密着した危険予知活動を行い,今日行う仕事に潜む危険を,みんなの知恵を出し合って認識し,各人の問題意識を高めると共に,安全に関する貴重な経験の伝承を進めています。
この活動が私たちに教えてくれることは,建設現場で毎日入れ替わり,技能レベルもバラツいている作業員によるチーム編成の中で,作業安全を確保する仕組みを職場環境に合わせて工夫し,ノウハウを蓄積し伝承していく重要性を示唆していることと思います。実際に働く人が問題意識を持って自ら考え,自覚しなければ,安全作業の実行は不可能です。